正直者の泣きっ面にハチ --- 初めての人命救助

(98/11/16)


98/11/14 深夜まで行われた Linux Users 九州オフに家族連れでお邪魔した翌日、 福岡と佐賀の県境あたりにある温泉マークに泊まったその足で、 プールと大浴場を持つ某施設に遊びに行ったときのこと。

私は深い方のプールで、5才になる娘 に溺れ方(^^;を教えていました。 娘はスイミングスクールに通っていて、最近は面付けクロールで結構進むように なってきているので、そろそろ溺れたときの対処についても教えておいた方が いいと思い、いったん沈んでからプールの底を蹴って浮かび上がる方法だの、 立ち泳ぎの方法だのを教えていました。妻は仕事の疲れからか、仮眠室で 寝ていました。

1時間ほど泳いだ後、冷たいものを食べて休んでから、やる気まんまんの 娘にせがまれしかたなく再度プールに入り、 娘を抱き上げてプールの中にに入れようとした矢先、ふと水の中が一部暗くなって いるのに気がつきました。見ると、小さな子供が水に潜っています。あれっと 思いましたが、ひょっとしたら自分で潜っているのかもしれない。ここで抱き 上げて変な顔されてもかなわんなあ、と思いながら見ていると、どうも動く様子が ない。ためしに抱きかかえようとしたが、じっとしている。こりゃ大変だ。

急いで水面に顔を出させて背中に担ぐと、大声で「誰か!溺れた!誰か呼べ!」 と叫びながら、プールサイドに引き上げました。まずはえーと水を吐かせるんだっけ、 気道確保だっけ。協力隊の国内訓練の際に 救命法を習ったような、そうでないような、もう10年以上も前の話です。 (娘が通っているスイミングスクールで、親子で救命法の講義を受けたことが あることを、後から思い出しました)。とりあえず、 腕にその子のおなかを乗せて、上下にはげしく揺さぶりました。胃の内容物と 水が噴き出てくるものの、息をしている様子がない。心臓が動いているか どうかは、動転していたため確認するのを忘れました。ところで私はすぐに、 訓練を受けた従業員が駆けつけてきて人工呼吸をしてくれるものと期待して いたのですが、いっこうに来る気配がない。何人かが動いて救急車を 呼んだりしてくれたみたいですが、現場には数人の客が駆けつけてくるだけ。 周りを見回してみると、プールの中もがらんとしています。

そのうち、見ていた人の中の1人の女性が「その子の 母親です」と抑揚のない声で言いました。その方の顔を見ると、なんだか 無表情でいっこうに慌てている気配もない。おそらく動転して、パニックに なるのを自分で必死に押さえていたんだと思います。

その子はいっこうに息を吹き替えす様子もないので、今度は床に寝かせました。 顔面は赤紫色になり、なんだかむくんでいるように見えました。いりゃいかん。 次に気道確保をして人工呼吸を始めようとすると、その母親がさっと手を出して その子の鼻をつまみ、口に息を吹き込みました。すると、体がビクッと動いて 痙攣のような動作をはじめ、何か吐きたそうな感じになったので、私たちは その子の体を横にし、私はその子の背中をはげしく叩きました。母親は無表情で 「○○ちゃん、ゲーしていいのよ」みたいなことを言っています。気がつくと 男性の従業員が1人私の隣にいましたが、私に指示するわけでもなく、その子の お腹をさすったりしているだけです。なんだコノヤロー!おまえここの従業員だろ? 蘇生法とかやったことないの?

どれほどの時間が経ったのでしょうか。なんとその子がワーッと泣き出し、 体がガクガク震え出したのです。やったー!蘇生した!もう大丈夫です。 あとは従業員にまかせることにしました。

ふと気がつくと、プールサイドにいた私の娘がいません。周りを見回すと、 プールサイドにある水槽によりそっていましたが、顔が青ざめています。 すぐに娘を抱き上げてやり、「あの子はちょっと溺れたとけど、泣き出したけん もう大丈夫。助かったとよ」と言ってやりました。 すでにプールサイドに降りてきていた妻の話では、娘は突然走ってきて、 「もう泳ぎたくない!」「おとうさんは?」「プールのとこにおる」。 「どうしたと?」と言っても何も言わない。よほどショックだったのでしょう (私だってショックでした)。

ここでさらに気がつくと、隣の滑り台付きの幼児用プールで遊んでいたはずの 4才になる息子もいない! プールサイドを妻といっしょにあちこち走り回り、 特に背の届かないところを重点的に見回しました。さっき助けた子の赤紫に むくんだ顔が思い浮かびます。あたふたしていると、妻が「おった、おった」。 件の息子は、浅いジャグジーにつかって湯湯治をしておりました。 「だって、寒かったとやもーん」とのこと。

娘のやる気もそがれ、私もそれ以上は泳ぐ気になれず、「もうお風呂に 入ってから帰ろうか」と子供たちに声をかけました。プールから出ようとする 帰り際に、すれ違いざま弱々しい笑顔で会釈してきた男性がいましたが、 あの溺れた子の父親だったのでしょうか。その時妻が、「着替えは?」 と私に聞きました。 「あれ、あんたの枕元にあったろ?」「それが、起きたら無かったとさ」。

着替えやタオルを入れていた手提げがなくなってしまいました。 フロントに聞いてみましたが、そのような遺失物はないとのこと。 どうも置き引きにあってしまったようです。うーむ。たいしたものは入って なかったものの、こんなもん取って何がおもしろいんだろう。

子供たちは妻に入れてもらうことにし、1人で風呂に入りましたが、 お湯に浸かっていると、さっきの子供が沈んでいるような気がして耐えられなくなり、 そそくさと上がってしまいました。 で、体を拭こうとタオルを取りにいったら、置いていたところにタオルがない。 誰かが拝借していったようですな。 うーむ、正直者の泣きっ面にハチとはこのこと。

風呂の出口で子供たちが出てくるのを待っていましたが、こんな時に限ってなかなか 出てこない。ゲームをしたりソフトクリームを食べたりしているよその子供たちを 眺めていると、さっき助けた子供の顔がオーバーラップしてきて、なんとも やるせない気分。まさか子供たちが風呂の中で溺れているとかないだろうか、 などとくだらない想像をしてしまいました。

結局、そこで晩御飯を食べ、最後に念のためもう一度フロントに尋ねてみたら、 ありました。着替えの入った手提げ袋が。中は掻き回されていました。 別にいいけどね。